【ブルース入門】三大キングを聴き比べ:B.B.キング, アルバート•キング, フレディ•キング

ブルース

「B.B.キング、アルバート・キング、フレディ・キングってよく聞くけど、何が違うの?」

もしあなたがそう思っているなら、この記事はきっと役に立ちます。ブルースの歴史を語る上で、この「三大キング」の存在は避けて通れません。彼らはそれぞれ異なるギタースタイルで、ブルースの魂を表現し、後の音楽シーンに計り知れない影響を与えました。

今回は、彼らがギターを通して発露させた表現に注目し、それぞれの魅力を聴き比べていきましょう。それぞれのキングが紡ぎ出す音の綾に耳を傾ければ、あなたの心に新たな景色が広がるはずです。


B.B.キング:不抜の「泣きのギター」

B.B.キング。彼のギターは「ルシール」と名付けられ、その音色は「泣きのギター」と形容されます。

一音一音に込められた深い感情は、聴く者の魂に直接語りかけるかのよう。彼の音は、まるで乾いた大地に降る慈雨のように、聴く者の心の奥底に染み渡り、深い哀愁と同時に、ある種の包容力や静かな喜びを呼び起こします。

彼のギタープレイは、過度な速弾きではなく、選び抜かれた音にすべてを凝縮するスタイルです。特徴的なヴィブラート(音を震わせる技法)やチョーキング(弦を押し上げて音程を上げる技法)は、彼の指先から放たれる情感そのもの。それは、人生の悲喜こもごもを全て受け入れた者のような、雄弁な沈黙を伴う。彼の「間」の使い方は、言葉にできない感情を雄弁に物語り、聴く者の想像力を掻き立てます。

必聴名曲

  • 「The Thrill Is Gone」
    この曲を聴けば、彼のギターがどれほど深く歌い語りかけてくるかが、きっと実感できるはずです。人生の哀愁が、一音一音に凝縮されているかのようです。その音色は、褪せた白の頬に残る、乾ききらない涙の跡のように、甘くも切ない感情の揺籃を映し出します。

「The Thrill Is Gone」Amazonリンク Apple Music

  • 「Every Day I Have The Blues」
    日常のブルースを、軽妙かつ深みのある歌声とギターで表現。聴く者の心に寄り添い、どんな日もブルースを抱きしめるような温かさを感じさせます。そこには、ささやかな日常の倦怠と、それを微笑んで見る、慈母の気配に満ちています。

「Every Day I Have The Blues」Amazonリンク | Apple Music

  • 「Sweet Sixteen」
    B.B.キングの哀愁と叙情性が際立つスローブルースの名曲。彼のギターが、まるで切ない恋物語を語るように、聴く者の胸に響きます。情熱と諦念が交錯する音の調べは、薄く淡い花弁が思惟に揺れるようです。

Apple Music


アルバート・キング:「左利き」が切り開いた力強いサウンド

アルバート・キングは、左利きでありながら右利き用のギターを逆さまに構え、弦を張り替えないという独特のスタイルでブルースの世界を切り開きました。この異端な奏法が、彼独自の力強く、時に攻撃的で、それでいてどこか孤独な感情を表現するサウンドを生み出したのです。

彼のギターは、「ゴリゴリ」とした重厚なサウンドと、力任せに弦を押し上げるような強烈なベンディングが特徴です。それは、抑えつけられた怒りや不条理に対する反抗心を、まさに身体の奥底から絞り出すような響きを伴います。一音出すたびに、音楽の土台が揺らぎ、聴く者に有無を言わせぬ迫力で迫ってくる。しかし、時折その豪胆さの奥に繊細さが見え隠れします。

必聴名曲

  • 「Born Under a Bad Sign」
    この曲は、彼の代名詞とも言える一曲です。力強いギターリフと、運命への挑戦を歌い上げる彼の声が、聴く者の胸に深く突き刺さるでしょう。生来の不運を嘆きながらも、その宿命に敢然と立ち向かう男の姿は、まさに人生の厳粛なる闘争を映し出すかのようです。

Born Under a Bad Sign」Amazonリンク Apple Music

  • 「Crosscut Saw」
    アルバートの強烈なベンディングと、粘り気のあるフレーズが存分に味わえる名曲。彼のギターが持つ、聴く者を圧倒するような存在感を体感できます。その粘りつくような音色は、まるで血肉を分かち合うかのような官能的な響きを伴います。

「Crosscut Saw」 Amazonリンク Apple Music

  • 「Blues Power」
    その名の通り、ブルースの持つ根源的な力を感じさせるインストゥルメンタル曲(歌なしの演奏曲)。彼のギターから放たれる圧倒的なオーラと、ブルースの真髄が凝縮されています。言葉を持たぬ音の連綿が、これほどまでに雄弁に魂の深淵を語り得るとは、まさに芸術の極致であり、ただただ圧倒されるばかりです。

「Blues Power」Amazonリンク Apple Music


フレディ・キング:軽快な「ファンキー」グルーヴ

三大キングの中でも、フレディ・キングは特に軽快でファンキーなグルーヴと、インストゥルメンタル曲(歌なしの演奏曲)の多さで知られています。ギターが歌うとき、言葉はそっと身を引くのです。

彼のプレイスタイルは、歯切れの良いカッティング(弦を素早くミュートしながら弾く技法)や、耳に残るキャッチーなリフワークが特徴です。それは、聴く者の身体を自然と揺らし、踊りだしたくなるような快活なエネルギーに満ちています。彼の音楽からは、どんな困難の中にも、音楽を通して喜びを見出し、人生を楽しむ、そんな確かな生命の鼓動が伝わってきます。

必聴名曲

  • 「Hide Away」
    1961年にリリースされたインストゥルメンタル曲で、フレディ・キング最大のヒットのひとつ。後にエリック・クラプトンらにもカバーされました。テキサス・ブルースとシカゴ・ブルースを融合させた構成で、フックの効いたメロディラインとリズムの変化が特徴です。言葉の影が退いたとき、音のひとすじが我々の胸奥に形を成します。

「Hide Away」 Amazonリンク Apple Music

  • Going Down
    1971年にリリースされたロッキン・ブルースの名曲。作曲はドン・ニックスで、フレディ・キング版はその強靭なギターリフとアップテンポのリズムによって、後続アーティストの演奏基準となりました。ライヴでは観客を沸かせる定番曲となり、彼のパワフルな演奏スタイルが存分に発揮されている。速さの中にこそ、ふと立ち止まって心を見つめる隙間が生まれ、演奏にしなやかさを与えています。

Going Down Amazonリンク Apple Music

  • 「I’m Tore Down」
    1961年に発表されたフレディ・キングのボーカル代表作。テキサス・ブルースの香り漂う楽曲で、彼の感情的な歌声と、短く鋭いギターリックとの絡みが特徴。B.B.キングやクラプトンも後にカバーした名曲です。

「I’m Tore Down」 Amazonリンク Apple Music


三者三様、しかし共通する「魂の響き」:彼らが音楽に残した影響

B.B.キングの「歌うようなギター」、アルバート・キングの「力強い一撃」、そしてフレディ・キングの「踊るようなグルーヴ」。彼ら三大キングは、それぞれが全く異なる個性を持ちながらも、共通して「ギターという楽器で、人間の魂を表現する」というブルースの本質を極めました。

彼らの音楽は、後のロック、ソウル、R&Bなど、あらゆるジャンルのギタリストやミュージシャンに計り知れない影響を与えました。エリック・クラプトン、ジミ・ヘンドリックス、スティーヴィー・レイ・ヴォーンといった伝説的なギタリストたちも、彼らのプレイから多大なインスピレーションを受けています。彼らが確立したギターフレーズや奏法は、今もなお、世界中のギタリストたちの指先で脈々と受け継がれているのです。それは、単なる技巧の継承ではない。痛みと歓喜の交錯を肉体に刻み、己が存在の証として弦を震わせる、生の烈しい痕跡に他なりません。

あなたはどのキングに惹かれる?ブルースギターを「感じて」みよう

いかがでしたでしょうか? 三者三様の魅力を持つ三大キング。彼らの音楽を聴き比べることで、ブルースギターの奥深さ、そして音楽が持つ表現の幅広さを感じていただけたでしょうか。

まずは、今回ご紹介した名曲を聴き比べてみてください。きっと、あなたの心に深く響く曲が見つかるはずです。そして、彼らのギターが紡ぎ出す感情の物語に、どうぞ身を委ねてみてください。

これらのアルバムは、主要な音楽サブスクリプションサービスでも手軽に聴くことができます。また、もし「当時の想定した音響で彼らのいる空気を味わいたい」と思ったら、アナログレコードでその温かい響きを体験してみるのもおすすめです。

あなたの音楽の世界が、三大キングのブルースによって、より豊かに広がることを心から願っています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました