【Cream解説】なぜスーパーグループ「Cream」は、わずか2年半で燃え尽きたのか?

サイケデリック・ロック

1966年、ロンドン。
ロックの神々が、自らが所属していたバンドを捨てて集結した。
ギターの神様と呼ばれたエリック・クラプトン
才能を轟かせていた超絶ベーシスト兼ヴォーカリストのジャック・ブルース
そして、鬼才ドラマーとして名を馳せていたジンジャー・ベイカー

世界初の「スーパーグループ」と称された「Cream(クリーム)」の誕生は、ロック界を震撼させる一大事件でした。彼らは、ブルースを基盤に、サイケデリック、ハードロック、ジャズの要素を融合させ、ロックの表現力をそれまで誰も到達し得なかった次元へと引き上げました。しかし、その奇跡的な輝きはわずか2年余りで終わりを告げます。彼らはその名の通り、あまりに濃厚で、あっという間に溶けて消えてしまいました。

なぜ、この奇跡はかくも短命だったのでしょうか?
この記事では、三人の天才が巻き起こした、栄光と破滅の化学反応の記録を追います。

三人の天才、三つのエゴ:スーパーグループ結成前夜

クリームを理解するためには、まず、このバンドがいかに異質で、強烈な個性を持つ3人によって構成されていたかを知る必要があります。

  • エリック・クラプトン(ギター)
    当時すでに「クラプトン・イズ・ゴッド」という落書きがロンドンの街に描かれるほどのカリスマ。ブルースの伝統を深く敬愛し、その純粋な表現を追求する求道者でした。
  • ジャック・ブルース(ベース、ヴォーカル)
    クラシック音楽を愛聴し、チェロを弾きこなすほどの音楽的素養を持ちながら、ジャズとブルースの世界に身を投じた天才。作曲とリードヴォーカルのほとんどを担い、バンドの音楽的な心臓部でした。
  • ジンジャー・ベイカー(ドラム):
    イギリス屈指のジャズドラマー。ツーバス(※)を含む大規模なセットを駆使し、ロックのリズム概念を根底から破壊した、偏屈で危険な怪物だったと言われています。

※ツーバス (Two Bass) :ドラムセットにおいてバスドラム(Bass Drum)を2台使用するセッティングのことです。海外では「ダブル・ベース・ドラム」とも呼ばれます。このセッティングにより、より複雑でパワフルなリズムを演奏することが可能になります

この三者が集まったこと自体が、奇跡であり、同時に悲劇の始まりでもありました。

ステージは闘技場:音量を上げ続けた果てにあるもの

クリームのライブは、基本的に調和のとれたアンサンブルではありませんでした。それは、互いの技術とエゴをぶつけ合う、音の闘技場だったと言えます。

有名な逸話があります。ジャック・ブルースジンジャー・ベイカーが互いに対抗するように大音量で演奏するため、エリック・クラプトンは自分のギターの音が聴こえなくなり、仕方なくアンプのボリュームを上げました。すると、今度は他の二人がさらにボリュームを上げる…この悪循環の末、彼らはステージ上に巨大なマーシャルのアンプの壁を築き上げることになりました。

この音量競争こそが、後のハードロックやヘヴィメタルが持つ「爆音」の直接的な起源の一つとなりました。また、彼らはブルースのシンプルな楽曲を、10分、20分と続く長尺のインプロヴィゼーション(即興演奏)のキャンバスへと変貌させました。それは、各々が自らの技術と感性の限界に挑む、スリリングな真剣勝負の場だったのです。

憎み合う二人のリズムセクション:ジャック・ブルース vs ジンジャー・ベイカー

クリームのサウンドの核となる、あの尋常ならざる緊張感は、リズムセクションを務めるジャック・ブルースとジンジャー・ベイカーの極端な不仲から生まれていました。

二人は以前在籍していたバンド時代から犬猿の仲で、ベイカーがブルースにナイフを投げつけたという逸話まであるほどです。しかし、音楽的には互いの才能を深く認め合っていました。ステージ上で、二人は互いの音を喰らい合うかのように、熾烈な音響合戦を繰り広げました。ジャックの超絶技巧のベースラインに、ジンジャーのポリリズミックなドラムが挑みかかり絡みつく。このリズムセクションの終わりなき闘争こそが、クリームのグルーヴの源泉だったのです。

神の苦悩:ブルースの求道者クラプトンと、二人の怪物

「ギターの神様」と崇められたエリック・クラプトンですが、このバンドの中では、しばしば懊悩と疎外感を抱えていました。彼が当初目指していたのは、バディ・ガイのようなギタリストでした。しかし、ジャズを志向するブルースとベイカーの音楽性は、彼の構想を遥かに逸脱していきます。

バンドの楽曲のほとんどはジャック・ブルースが書き、リードヴォーカルも彼が務めました。そのため音楽的な主導権はジャックにあり、クラプトンは二人の怪物が繰り広げる壮絶なインプロヴィゼーションの嵐の中で、自分の立ち位置を見失いそうになることもあったと言います。ブルースの求道者でもあった彼にとって、クリームの音楽はあまりに前衛的でサイケデリック過ぎたのかもしれません。

初心者におすすめの3曲:奇跡の化学反応を聴く

この奇跡的で危険なバンドの神髄に触れるには、どの曲から聴けばいいのでしょうか。ここでは、彼らの化学反応が生んだ、入門に最適な3曲を紹介します。

1. Sunshine of Your Love (サンシャイン・オブ・ユア・ラブ)

彼らの最大のヒット曲にして、ロック史に燦然と輝く名リフを持つ一曲ジャック・ブルースエリック・クラプトンが共作したこのギターリフは、ブルースのペンタトニック・スケール(※)を基にしながらもこれまでのどのブルースとも違う、普遍的で中毒性のある響きを持ちます。サイケデリックな浮遊感のある歌詞と、ジンジャー・ベイカーの叩き出す部族的なドラムビートが融合した、彼らの音楽性の「ど真ん中」を体現した代表曲です。

※ペンタトニック・スケール:1オクターブの中に5つの音しか含まない音階です。メジャースケールやマイナースケールのように7つの音で構成されるダイアトニックスケールと比べて、音数が少ないためシンプルで力強い響きが特徴です。ブルース音楽では、ペンタトニック・スケールが頻繁に使用されます。特に、マイナーペンタトニック・スケールはブルースの基本となる音階で、ロックやブルースのソロやフレーズを演奏する上で欠かせません。

筆者のひそやかな感想:
このリフは、あまりに有名になりすぎた。しかし、改めて聴くと、その構造の完璧さに慄然とする。ブルースの遺伝子を持ちながら、同時にポップソングとしての甘美な響きと、サイケデリックな酩酊感を併せ持つ。それは、太陽の光という名の、抗いがたい引力だ。しかし、その光にはどこか、燃え尽きる前の破滅的な輝きにも似た、危うい影が差しているように思えてならない。

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2. Crossroads (クロスロード)

1968年のライブ盤『Wheels of Fire』に収録された、ロバート・ジョンソンのカバー。クリームのライブにおける真骨頂が、この一曲に凝縮されています。原曲の持つアコースティックな孤独は、ここでは、爆音のギター、うねるベース、嵐のようなドラムによる、高速のインタープレイへと再構築されます。特に、クラプトンが弾き倒すギターソロはロック史における最も偉大なソロの一つとして語り継がれています。

筆者のひそやかな感想:
彼らの奏でる「クロスロード」は、もはや単なるブルースの継承ではない。それはロバート・ジョンソンという古き神話を、三柱の神が現代の闘技場へと呼び寄せ、引き裂き、再び新たな神話として鍛え直す厳粛な儀式であった。クラプトンのギターは、ブルースという血脈への畏敬と、その血脈を超えようとする烈しき意志との狭間で熾烈に火花を散らす。父を凌駕せんとする息子の、祝祭にも似た悲壮な闘争の譜である。

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3. White Room (ホワイト・ルーム)

彼らの後期の代表曲であり、より複雑で構築的なサウンドへと進化したことを示す一曲。ジャック・ブルースのドラマティックなヴォーカル、ワウペダル(※)を効果的に使ったクラプトンのサイケデリックなギター、そして壮大な曲展開。歌詞は幻想的で難解なイメージに満ちており、「白い部屋」という閉鎖的な空間からの逃避や、時代の終わりを歌っているようにも解釈できます。
※ワウペダル:ペダルを操作することで、音の周波数を変化させ、独特の「ワウワウ」という音を出すエファクターです。

筆者のひそやかな感想:
この楽曲が示す「白い部屋」とは、いかなる場所であろう。ドラッグの幻視に彩られた牢獄か、精神を鎖す閉ざされた病棟か、あるいは頂点を極めし者のみが踏み入る、形容しがたい虚無の殿堂か。ワウペダルによりねじ曲げられたギターの響きは、あたかも空間そのものを撹乱し、崩落の兆しを伝えるかのようである。端正に組み上げられた美の構造の、その最奥に潜む深淵。この曲に身を委ねるとき、われわれは栄光の終焉に待ち構える、絶対の孤独について思わずにはいられない。

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燃え尽きた理由:頂点での解散という必然

奇跡の化学反応は、長くは続きませんでした。音楽的な方向性の違い、そして何よりメンバー間の人間関係の破綻は、修復不可能なレベルに達していました。ステージ上では火花を散らす彼らも、ひとたびステージを降りれば、互いに口も利かない状態だったと言われています。

1968年、バンドはキャリアの頂点で解散を発表します(※)。それは、多くのファンに衝撃を与え増田が、内部から崩壊しつつあった彼らにとっては必然の結末でした。
※解散の正式発表は1968年7月頃。ラストツアーを経て1968年11月に最終公演

まとめ

クリームとは、三つの巨大な恒星が、互いの引力によって奇跡的に束の間だけ安定を保った危険な星系でした。その危うい均衡が生み出した音楽は、凄まじい熱量と光を放ち、ロックの新たな進路を照らし出しました。

そして、彼らは自らが放ったその熱によってわずか2年余りで燃え尽きました。クリームの物語は、才能とエゴがぶつかり合った時に生まれる、創造と破壊の、あまりに美しく、そしてあまりに悲しい実例なのです。

FAQ|よくある質問

Q1. なぜバンド名が「クリーム(Cream)」なのですか?
A. 当時、メンバーの3人がそれぞれの分野で「最高の中の最高(the cream of the crop)」と見なされていたことから名付けられました。

Q2. クリームを聴くなら、どのアルバムからがおすすめですか?
A. まずは、彼らの代表曲が詰まっており、ブルース、ポップ、サイケデリックのバランスが最も良い2ndアルバム『Disraeli Gears』から聴くのがおすすめです。ライブでの彼らの真骨頂に触れたいなら、ライブ盤とスタジオ盤がセットになった『Wheels of Fire』も必聴です。

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